本日は『製造業におけるQC工程表の基本』をお伝えしたいと思います。
QC工程表とは、何か?
QC工程表とは、管理者と技術者が主として使う技術資料で、量産時に品質のバラツキを極力少なくするための品質保証プログラムを表したものであり、品質管理するための工程を表す一覧表でもあります。品質保証のプログラム設定、あるいは品質保証の可否の検討などに使われます。
製品が完成するまで、どのような生産工程を経て、どのような製造条件をコントロールしているか?各工程でどのような品質特性をチェックしているか?を書き表したものです。
日本品質管理学会(JSQC)では、QC工程表を次のように定義しています。
「製品・サービスの生産・提供に関する一連のプロセスを図表に表し、このプロセスの流れにそってプロセスの各段階で、誰が、いつ、どこで、何を、どのように管理したらよいかを一覧にまとめたもの」
生産現場でQC工程表がなければ、どの工程で品質不良が発生したのか?どのようにすれば品質保証できるのか?が、簡単にできません。QC工程表がないと、数百枚からなる作業標準書を全て調べる必要がありますし、その作業標準書もなければ何が正しいのかも見失うことになる可能性があります。これでは問題解決まで時間がかかりすぎますし、市場への不具合流出の恐れもあります。
QC工程表に欠かせない標準化
企業の目的を果たすためには、組織を効果的・効率的に運営する必要があります。その組織運営に欠かせないのが、企業内ルールを決めて守るという「標準化」です。
標準化とは「自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化する事柄を少数化、単純化、秩序化すること」とされています。
日本工業標準調査会より引用
つまり、標準化とは、製品・サービスの品質・質をバラツキを少なく一定レベル以上にする方法です。標準化しなければ、仕事を行う時や人の違いにより、製品精度のバラツキが大きくなり、時間やコストなどのムダが生じてしまいます。
品質管理(QC)の歴史
品質管理の歴史は、第二次世界大戦後の1951年、統計的手法を用いた品質管理の提唱者であるアメリカの統計学者デミング博士が、日本に来日して「品質管理セミナー」を開催しました。それが日本における品質管理の始まりと言われています。
デミング博士は、統計的品質管理の父とも言われるウィリアム・シューハートと共に、PDCAサイクル(Plan:計画・Do:実行・Check:評価・Act:改善)の4つを繰り返すことで、事業を継続的に改善していくことを提唱しました。
また、それまで完成品を全品検査していた品質管理を、製造工程を視覚的に監視する統計的制御プロセス(SPC)により、第二次世界大戦中の日本やアメリカの製造業の生産力向上に寄与しました。統計的制御プロセスとは、製造工程で少数の標本を頻繁に採取・検査することで製品の品質を維持する品質管理の手法。
デミング博士は、企業が永続的に発展するための品質管理に関する企業活動を以下の4つの段階で示しました。
- サービス・調査研究:顧客ニーズや要求を調査・研究
- 設計:顧客の要求を満足させる製品設計
- 製造:設計どおりの製造
- 検査・販売:製品を顧客に販売
この4つのサイクルを絶えず回すことの重要性を強調しました。そして、コンサルタントであり統計学者でもあるデミング博士は、ビジネス効率を向上させるためのマネジメントの14の原則を提示しています。
●【デミングの14のポイント】(※Wikipediaより引用)
- 競争力を保つため、製品やサービスの向上を常に心がける環境を作る。最高経営者がその責任者を決める。
- 新しい哲学を採用する。我々は新たな経済時代にいる。遅延、間違い、材料の欠陥、作業の欠陥などの一般常識となっている水準には満足できない。
- 全品検査への依存を止める。品質は統計的手法で向上させる(完成後に欠陥を見つけるのではなく、欠陥を防止せよ)。
- 価格だけに基づいて業者を選定することを止める。価格と品質によって選定する。統計的手法に基づく品質保証のできない業者は排除していく。
- 問題を見逃さない。全体(設計、受け入れ材料、製造、保守、改良、トレーニング、監視、再教育)を継続的に向上させるのがマネジメントの役割である。
- OJT(企業内教育)の手法を導入する。
- 職場のリーダーは単に数値ではなく品質で評価せよ。それによって自動的に生産性も向上する。マネジメントは、職場のリーダーから様々な障害(固有の欠陥、保守不足の機械、貧弱なツール、あいまいな作業定義など)について報告を受けたら、迅速に対応できるよう準備しておかなければならない。
- 社員全員が会社のために効果的に作業できるよう、不安を取り除く。
- 部門間の障壁を取り除く。研究、設計、販売、製造の各部門の人々は様々な問題に一丸となって対応しなければならない。
- 数値目標を排除する。新たな手法も提供せずに生産性の向上だけをノルマとしない。
- 数値割り当てを規定する作業標準を排除する。
- 時間給作業員から技量のプライドを奪わない。とりわけ年次・長所によって評価することや目標による管理は廃止する。
- 強健な教育プログラムを実施する。
- 最高経営陣の中で、上記13ポイントを徹底させる構造を構築する。
QC工程表が、なぜ必要なのか?
- 「品質保証プログラムを示す表は他にない」
QC工程表は、品質保証プログラムを一覧表で表すことができるという点で唯一のモノです。他に一覧をまとめて確認できる資料はありません。 - 「不良発生時の原因究明の調査に役立つ」
品質不良の問題が発生したとき、その原因調査するのにQC工程表が一番役に立ちます。
生産プロセスが一覧となっているため、原因がどこなのか?検討を付けるのが早いためです。 - 「作業改善がやりやすくなる」
企業は生き残りをかけ作業改善を通し、品質向上やコストダウンに取り組み続けなければなりません。どの工程、どの作業を改善すべきかは、QC工程表にある作業記録により、不具合率の高い工程やタクトタイムに間に合わない工程を発見することができます。 - 「生産現場の監督者が管理するときに活用」
現場の管理監督者の役割は、作業員に怪我なく、設計の狙い品質を計画通りに生産することです。QC工程表には、各工程に必要な生産設備や検査設備が規定しているので、管理監督者には必要な資料です。 - 「得意先へ根拠ある品質保証プログラムの説明資料」
最近は、どの企業も不良品は購入したくないため、元請け企業の品質意識が向上しており、下請けメーカーや協力メーカーなどに対する要求品質のレベルも向上しています。
そのため、QC工程表の提出を求めてくる場合もあり、品質の信頼を獲得するために必要な資料となっています。 - 「新人作業者に対する説明資料になる」
新人作業員の教育のために作業を教える前に、全体の生産プロセスを把握した上で、自分が製品の何を造っているのか?を明確にすべきです。
そのときに役立つのがQC工程表になります。 - 「QC工程表は作業標準書の目次の役目」
QC工程表には、どの工程で、どの作業標準書を適用するか?を明記しているしているため、わざわざ別で作業標準書の目次を作る必要はありません。 - 「納期短縮・コストダウンへの改善に必要な資料」
QC工程表には、生産プロセスにおける各工程のステップが明記されているため、何が無駄になっているのか?が分かりやすくなっています。 - 「ISO9000「品質計画書」の文書として必要」
ISO9000シリーズ(品質保証のための国際規格)には、要求事項として品質計画書があり、組織の計画の実行に適した様式とされています。これは、製造プロセスの全体を明確にした業務フロー(品質保証体系図)、QC工程表、作業指示書等が該当します。
QC工程表がないと、どうなる?
- 「品質保証の計画を体系的に表すことができなくなる」
QC工程表は、品質保証プログラムを表したものであり、品質管理するための工程を表す一覧表でもあります。そのQC工程表がないと品質保証を表すことができません。 - 「生産プロセスにおける各工程のステップが分からない」
QC工程表がないと、どのような生産プロセスで製造しているのか?が見えません。ですので、製品が完成するまでの各工程のステップが分からないのです。 - 「各工程における管理項目と管理方法が分からない」
QC工程表がないと、工程で何をどのように管理すればいいのか?が分かりません。個人差が大きく出てしまい製品精度のバラツキに繋がります。 - 「各工程における保証する品質特性が分からない」
QC工程表がないと、保証すべき品質に重要な影響を及ぼす要素(品質特性)が明確になりません。何を保証すればいいか分からないと品質保証はできません。 - 「各工程における作業標準が分からない」
QC工程表がないと、製品の品質が保証できる製造方法の標準が分かりません。誰がやっても信頼できる製品が造れないということです。 - 「各工程で使用する設備や測定機器が分からない」
QC工程表がないと、製品の品質が保証できる製造設備や管理するための測定機器が分かりません。どのような設備で造るのか?どんな精度管理をするのか?が明確になりません。 - 「作業者がどの程度の技能やどんな技術が必要なのか分からない」
QC工程表がないと、作業者に求める技能レベルが分かりません。また、どのような技術を求めるのかも分かりません。 - 「不良発生時の原因究明に時間がかかりすぎる」
QC工程表がないと、どこが不良の原因なのか?を掴むまでに時間がかかり過ぎてしまいます。不良品を作り続けてしまうことにもお繋がりますし、流出してしまう可能性もあります。また、間違った改善をしてしまうことにもなりかねません。 - 「作業標準だけでは、工程や作業改善の重点ポイントを絞りにくい」
QC工程表がないと、どのように品質保証させているのか?全体像も分かりません。ですので、工程改善や作業改善するときに、重要なポイントを物がしてしまうことにも繋がってしまいます。 - 「得意先から品質保証状況を求められても納得できる回答ができない」
QC工程表がないと、得意先の企業が納得できる根拠ある品質保証の状況を説明することができません。特に相手が大手企業となると、なぜ品質保証できるといえるのか?という問いに答えられないと関係性を続けるのは難しいと思われます。
QC工程表で重要なこと
QC工程表で大事なことは「管理点」と「管理方式」です。
- 【管理特性】:工程の結果を表す特性のこと。それを見ていれば工程の管理状態を知ることができる特性」のこと。
- 【品質特性】:品質を構成する要素(特性)のこと。
管理とは、「測る+判断する+異常にアクション」をとることです。各工程で、品質を保証するために「誰が、いつ、どのような条件を管理しているのか?」品質保証する一連の流れを一目で分かるように作られている表です。
QC工程表7つの目的
このQC工程表の作成段階は、設計・開発段階から製品やサービスをQCDを踏まえ、「どのように作るのか?」具体的な生産の工程設計を行う段階です。高品質で儲かる工程設計するために、作業標準を明確にしてバラツキを少なく効率よく生産できなければなりません。設計品質を達成させるための製造品質の向上のために、QC工程表はあります。
- 「作業標準書を作成するときの基準とする」
QC工程表の管理項目や管理基準を満足させるように、各工程の作業方法を作業標準にまとめます。作業者は、その作業標準に従い作業を行うことで標準ができていきます。 - 「社内スタッフの教育資料になる」
QC工程表には、製造の全行程が網羅されているため、自工程が製品の何を作っているのか?を把握できますし、仕事の位置付けをすることができます。すべての動作の意味を確認することができるため、各工程のスタッフの作業のため品質のための教育資料になります。 - 「社内に品質保証を実現する保証活動を周知させるため」
品質管理の実施状況をチェックシートなどに記入し、工程の品質が管理されていることを確認します。 - 「品質不良の発生原因を調べるため」
製品の不良が発生して原因を調べるときに、品質に影響を与える工程や品質特性などを調べます。 - 「変化点管理で履歴(記録)として残せる」
設計変更、製造方法や製造条件が変更されるときの変化点管理としても活用できます。 - 「顧客や仕入先などに自社の品質保証状況や品質改善活動の説明ができる」
購入する製品が、品質基準に合致しているのか、品質管理が正しく行われているのか心配ですので、確かな品質を提供している証拠の一つとして、顧客への品質管理の説明資料として使用します。 - 「仕入先や外注先の工程監査の資料として履歴を残せる」
外注業者から購入する材料や部品が工程の品質基準を満たしているか?確認するときに使用します。
QC工程表の作成(必要な項目)
通常QC工程表は、製品毎に作られます。製品がいくつかの部品より構成され、その組み合わせによって製品が変わる場合はQC工程表を分けて作成します。全ての構成部品に対してQC工程表が作られるということです。
- 【工程番号】
まず、必ず必要な項目の一番は工程に付与する番号です。 - 【管理点】
「管理項目」各工程で製造する設備の加工条件となる特性で、加工する設備側で測れる特性。
「品質特性」各工程の製造した製品の状態を表す項目であり、製品側で測れる特性のこと。 - 【管理方法】
「規格・基準」工程に適用する規格値や製造基準値を明確にして記入する。
「機械・測定機器」工程で使用する機械や測定機器を明確にして記入する。 - 【検査方法】
抜き取り検査・全数検査なのかを明確にし、抜き取りの場合は抜き取り数も明確にし、誰がどのように検査するのかも含めて明確にする。 - 【記録様式】
品質特性を測定した結果を記録する必要がある場合は、記録する欄を設けておく。 - 【標準時間】
この標準時間は、品質保証とは関係ない項目だが、作業改善などを見据えたときにあると便利になる。 - 【その他】
その工程で製造する工程や設備管理の点検保守・異常処置・教育訓練などもも合わせて掲載することもある。
QC工程表の作成時の注意点
- 【簡潔で分かりやすいこと】
QC工程表は品質保証のプログラムであるが、作業内容をすべて詰め込んで表記する必要はありません。限られたスペースの中で、工程順序に従って、簡潔に分かりやすく品質保証プログラムを書きましょう。 - 【最初から完璧なQC工程表を作ろうとしないこと】
生産技術の観点から言っても、はじめに計画していたやり方よりも、何回も繰り返し生産を繰り返していく中で、最適な製造方法が見えてきます。それは、生産の繰り返しで回数をこなすにつれ、経験を積むにつれ、品質を落とさずにコストを下げる方法が見つかるからです。 - 【企業秘密事項は、取引先に提出するQC工程表には記載しない】
最近は、取引先からQC工程表の提出を求められることもありますが、提出するQC工程表に企業秘密(製造条件や検査方法)が掲載されていると社外に漏れる可能性が高まります。それを避けるために、、取引先に提出するQC工程表には企業秘密は記載しないということも注意しましょう。
QC工程表に記載する事項
- 「製品・サービスの仕様書や図面を明確にする」
「具体的に何を作るのか?」その仕様や機能や構造、配置を描いた設計図を明らかにする。 - 「製品・サービス提供プロセス仕様書を明確にする」
QCDを踏まえ「どのように製造するか?」その製造順序などプロセスを明らかにする。 - 「作業方法を示した作業手順書や作業要領書を明確にする」
各工程で「その製品をどうやって作るか?」の作業順序や要領を誰でもできるように明らかにする。 - 「各工程で使う機械設備や人員を明確にする」
その工程で製品を作るために必要な使用する設備や人員を明らかにする。 - 「各工程で使用する測定機器や監視機器を明確にする」
製造した製品が「品質が確かなものか?」を確認する測定方法や頻度、基準などを明らかにする。 - 「各工程で使用する部品や原材料を明確にする」
製造に使用する「部品や原材料は何か?どのようなものなのか?」素材を明らかにする。 - 「いつまでに、どの程度の量を提供するのか?を明確にする」
QCDを明確にするために、期限と数量を明らかにする。 - 「どのような判断基準で次工程へ引き渡すのかを明確にする」
次の工程へ引き継ぐ時は「何を基準にするのか?」を明らかにする。 - 「問題や異常が発生した際の処置方法を明確にする」
目的通りに生産できない場合、異常が起きた時の処置方法を明らかにする。
QC工程表の作成手順
QC工程表に掲載する項目は、「工程名・工程No・作業名・作業設備・管理項目・管理基準・管理方法・点検保守・検査・記録・異常処置・教育訓練」などがあります。
- 「作業の流れについてフローチャートを作成する」
作業全体の流れを俯瞰できるように、フローチャートの作成を行う - 「フローチャートから作業工程名を明確にする」
全体から「各工程で何を行うのか?」を一工程ずつ明らかにしていく - 「各工程の管理項目を明確にする」
各工程で「何を保証するか?」その管理項目を明らかにしていく - 「各工程の点検項目を明確にする」
品質保証するために「具体的に何をチェックするか?」を明らかにしていく - 「検査工程で行う検査項目を明確にする」
品質不具合が流失しないよう「何を検査するか?」を明らかにしていく - 「各工程の実施方法を明確にする」
その品質保証するための頻度や回数などを明らかにしていく - 「異常処置のやり方を明確にする
異常があった場合などの対処方法を明らかにしていく
また、QC工程図の中に記載するQC工程図記号については「JIS Z 8206」で定義されている記号があります。
工程 | 工程 名称 | 意味 |
加工 | 原料、材料、部品または、製品の形状、性質に変化を与える過程 | |
数量 | 原料、材料、部品または、製品の量、または個数をはかり、その結果を基準と比較して、差異を知る過程 | |
品質 | 原料、材料、部品または、製品の品質特性を試験し、その結果を基準と比較して、ロットの合格、不合格、または、個品の良、不良を判定する過程 | |
貯蔵 | 原料、材料、部品または、製品を計画により蓄えている過程 | |
滞留 | 原料、材料、部品または、製品が、計画に反して滞っている状態 | |
運搬 | 原料、材料、部品または、製品の位置に変化を与える過程 |
作業標準の作成
次の段階は、QC工程表で明確になった各工程での作業内容を誰でもできるように標準書を作成する必要があります。作業標準書とは、誰が作業を行っても同じ結果が出るように、作業内容や動作や手順を、現状の最善のものとして定めた作業の仕方をまとめたものです。
この作業標準の目的は、安全・品質・コストを保証することであり、達成するための手段ですので、図表や写真などを使って作成するとよいでしょう。
- 「作業標準書に記載する内容」
適用範囲・作業目的・材料(部品)・設備(治工具)・作業について(作業者・手順・時間・場所)・品質基準・測定方法・異常処置・品質や安全で注意するポイント - 「作業者が理解でき、確実に実行できるものにする」
「作業にどんな機能を持たすか?」を決めた上で、その機能を達成できる作業手順を決めていき、どの作業を誰が、いつ、どのように計測するかを決める。ムリ、ムラ、ムダのない作業で、安定した品質の製品を作れる作業の検証を行いましょう。 - 「作業標準書は、直感的にパッと見て理解出来るように」
作業標準書は、OJT(On the Job Training)の現場教育教材としても使われますので、文字だけでなく直感的にパッと見て理解出来るように、図表や写真などを使って作成するとよいでしょう。
作業標準書とは?
作業標準書とは、誰がやっても同じ結果が出るように、人の動作・機械操作の手順を、現状において最善のものとして定めたものです。作業標準の目的は、安全・品質・効率を保証することであり、達成するための手段です。
つまり作業標準書の目的は、現場で行う作業の品質の安定化と、製品品質のバラツキを低減させるために行う標準的な作業内容を示した文書です。
作業標準書が必要な4つの理由
- 「作業方法を一定にすることで作業者によるバラツキを低減」
作業を標準化しないと、7つのムダ(造り過ぎのムダ・在庫のムダ・加工そのもののムダ・不良を造るムダ・動作のムダ・手待ちのムダ・運搬のムダ)が発生してしまいます。なぜならば、作業手順がバラバラなため、人によっては不良品が多発し材料がムダになり、手直しのムダも発生します。さらには、作業のバラツキがあるため納期に間に合わないということも考えられます。 - 「技術ノウハウを文書化してまとめ、形として残す」
標準作業を文書化して残しておかないと、他の人に正しく伝わりません。工場として現在で一番ベストな作業方法を残していくためにも技術ノウハウの文書化は必須です。 - 「新人作業者に対する教育資料とする」
新人作業の見本となるべき作業がないと、個人差が生まれてしまいます。そのため、作業習得に時間がかかり、その上正確性と再現性のない作業になってしまい、不良が多発する原因を作ってしまいます。作業の習熟度スピードを早めるためにも作業訓練の段階から教育資料として使用すべきです。 - 「作業改善する場合、現状把握のために使う」
利益を生み出すためには、ムダな作業を省く効率化を図る必要があるため、技術的にも管理的にも作業改善が必要になります。その作業改善をする際に、たたき台となる関係者の共通認識がないと作業改善は進みません。現状の状態を明確にして共通認識を持たせるためにも必要です。
作業標準書3つの種類
- 「作業管理のための作業標準」
作業管理のための作業標準書は、作業の安定を目的としています。作業者の作業の安定により製造のQCD(品質・コスト・納期)のバランス良い成果を得ることを目的としています。作業員が作業標準を守らないという話を聞きますが、それは守れない作業標準や作業観察をしていないというだけです。作業がやりやすい標準を作り、きちんと観察することで、QCD(品質・コスト・納期)のバランス良い成果を得ることができます。作業標準書として、QC工程表・製品図面・部品表・仕様書・作業組み合わせ表・工程別能力表などがあります。 - 「設備管理のための作業標準」
設備管理のための作業標準書は、工程能力の確保を目的としています。設備を正しく操作し、適切に保全することが目的ですので、各設備の操作や作業標準書や設備点検チェックシートなどで対応します。作業標準書として、設備の日常・定期点検チェックシートなどがあります。 - 「品質管理のための作業標準」
品質管理のための作業標準書は、検査や測定誤差の減少を目的としています。検査や品質改善業務が目的となり、検査業務では部品受け入れ検査・工程内検査・完成品検査を行います。検査や品質改善共に、測定で評価や修正を行いますので、作業標準書によって測定誤差が少なくなり確かな検査業務が行えます。作業標準書として、測定器校正手順書・検査設備点検チェックリスト・測定手順書などがあります。
使える作業標準書にするために必要な5つのこと
- 「過去トラやベテラン作業者のノウハウを詰め込む」
使える作業標準書にするには、ベテランの経験やノウハウを明文化することで形式知となり、過去の失敗を繰り返さずに済みます。そもそもカンコツが必要な職人的ノウハウを必要とする業務は、開発、設計、生産技術、製造、アフターサービスなど数多くの業務に存在します。一般的に、ノウハウを習得するには、長い時間をかけた経験が必要だと考えられますが、新人作業者が業務でベテランと同等の経験を得ることは難しく、ノウハウが共有されないまま同じ失敗を繰り返しているのが現実です。このため、暗黙知になりがちな経験で得られるノウハウを可視化し共有することで、作業者の経験や知識を効率的に育成することが必要です。 - 「作業標準書に書かれている仕事の意味と目的を理解する」
使える作業標準書にするために一番大切なことは、作業標準書の意味と目的を理解することです。自分の業務が生産プロセスにおけるどの仕事であっても「何のために、この作業を行うのか?」という仕事の意味と目的を知らなくて良いという理由にはなりません。もし、このような考え方でいるのであれば、作業者の仕事は常に上司から与えられた「作業の繰り返し」で終わってしまいます。行っている仕事の完成製品を知らずに業務を行ってしまえば、ただの繰り返し作業から抜け出せません。作業標準書を使って、「何のために、この作業を行うのか?」を明確化することが、安定した品質を作り出すことができる最短ルートです。 - 「パッと一目で全体を見る!分かりやすさを重視する」
使える作業標準書にするために重要ことは、一目で全体が見えるようにすることです。あれもこれもと、伝えたいことを全て詰め込んだり、本題とは直接関係のないことを書いたりすると読むのが大変になってしまいますので、理解することもできません。要は、具体的でロジカルで、一目見れば理解できる説明不要な作業標準書を作ればいいということです。 - 「作業標準書は、作業改善の第一歩と捉えるもの」
使える作業標準書にするためには、現状の作業標準書は作業改善のたたき台と考えることです。現状の作業標準が見えるようになっているということで、全体を見ることから始め、その中からムリ・ムラ・ムダがないか?を徹底的に調べます。今度は、実際の作業をやってみることで、ムリ・ムラ・ムダが見えてくる部分もあると思いますので、「なぜそうなったのか」という原因を追求していきます。ここで間違えていけないのが「今までずっとしてきた、、、」とか「他人もこの方法だったから、、、」という理由は要りません。事実だけを見ていきましょう。 - 「作業標準書は、実際に使う現場で管理するべきもの」
使える作業標準書にするためには、実際に使う現場で管理するべきものですし、作業標準書はQC工程表と一緒に活用するべきものです。実際に現場で活用することで「現状をもっと良くするためには?」を追求するには、正しい現状把握が重要なポイントです。今が最高ではありませんので、より良くしていくために作業標準書・QC工程表はセットで活用し、さらに良きものを作り上げていきましょう。
生産現場でのQC工程表の活用法
- 「工程での異常発生時の対応手段として活用」
生産ラインを復帰させるため、QC工程表の管理項目や製造条件に異常がなかったかを確認することができる。復帰させるために、管理項目が明確でないと、現状復帰させることは難しく、下手をすると抜けが出てしまい現状復帰できない可能性があります。 - 「工程管理の資料として活用」
QC工程表を見れば、品質保証で工程管理するための資料が一目で理解できます。例えば、製造規格・作業標準・工程管理・検査基準など具体的な資料が分かります。 - 「工程で行うべき検査方法が理解のため活用」
どのタイミングで?どれだけの数量を?どんな方法で、どこを検査するのか?必要な検査機器は?検査結果の記録方法などが理解できます。 - 「加工条件と品質特性の関係性理解のため活用」
高品質の製品を量産するには、製造条件を設定することが必要です。その上で、QC工程表に記載されている管理項目と管理点を確実に現場で反映することが、高品質の製品を作るために必要です。 - 「管理監督者が現場の管理で活用」
現場の管理監督者の重要な役割として、生産ラインを計画通りに稼働させることが挙げられます。QC工程表には、そのための工程管理する情報(材料・部品・設備・作業標準・検査方法)などが記載されています。このQC工程表を基に、現場の監査を行うことで、品質保証できる生産ラインができるようになります。 - 「工程改善や作業改善に使う資料」
QC工程表は、一覧表となっているため品質不良の低減やタクトタイムの短縮、コストダウンなど工程改善や作業改善のための調査資料として活用できます。 - 「新人作業者の教育用資料に活用」
新人作業者に対して、生産工程全体の流れと担当する工程、前後の工程を理解するためには、QC工程表は最適な資料です。 - 「外注取引先の品質保証状況確認のために活用」
外注部品の品質管理や品質保証状況の確認のために、QC工程表の提出を求め確認します。この時、一方的な押し付けではなく一緒に活動することで、もっとよくしていくという活動を一緒に行っていきましょう。 - 「顧客へ製品の品質保証資料として活用」
企業間の契約時に、製品の確からしさを確認するため、QC工程表の提出を求められることが多くなってきています。やはり不良品は買いたくないものですので、確かなものだという約束の一つの形がQC工程表になります。新規開拓にも非常に役立つものでもあり、USPを見つけるための資料になります。 - 「自社の生産技術ノウハウを残す資料として活用」
QC工程表には、生産プロセス・使用する設備・検査方法などが記載されています。自社の技術ノウハウが一覧として確認できますので、新商品の製造時などにも活用できる貴重な資料になります。
QC工程表の管理
- 「生産現場は毎日変わるもの」
QC工程表は生産技術資料として使用しますので、製造条件が変わったり、品質特性が変わったりすることは普通のことです。作っていたQC工程表が半年以上も更新されてないということは、使われてないということです。最初から完璧なQC工程表は作れないので、作り上げていくという意識で取り組むことが重要です。多くの製造現場では、QC工程表が飾り物として、陽の目を浴びることなく、書棚の中に保管されていることが多いです。 - 「なぜ、QC工程表は変更されないのか?」
そもそも、QC工程表を使わずに生産していることや、作業に影響ないと考えているためだと考えられます。変更するたびに確認や承認が必要なことから、手間がかかることもあったり、無関心だということも挙げられます。 - 「QC工程表は、技術的な変更がある場合、書き直す」
使用する材料や部品や使っている設備や治工具を変更した場合、工程の順序を入れ替えた場合、製造条件や品質特性を変更した場合は、QC工程表を変更します。
よく見られるQC工程表の現状
- 「QC工程表が最初のままで放置されている」
生産準備の段階で、作成したままの状態で、更新されずに放置されている状態です。これは、QC工程表の意味や使い方を理解せずに形だけマネして作ったり、ISO9000対策のために作ったことなどが挙げられます。 - 「QC工程表の使い方を知らない」
生産技術部門などでQC工程表を作成し現場に配布するが、その目的や使い方を理解できるまで説明してないため有効活用できない。実際、現場の末端メンバーまでその目的を理解しているケースは少ないのかもしれません。 - 「QC工程表が管理されてない」
変更のたびに変更していく資料だが、内容更新のたびに変更できておらず、使えない資料になってしまっています。これは、QC工程表の重要性を理解されてないことが大きく影響している考えられます。 - 「生産に精一杯で、QC工程表に無関心」
QC工程表は品質保証プロセスを示す文書であるのに、管理監督者が生産ばかりに意識が行き、QC工程表に無関心ということが挙げられます。
QC工程表はムダを削減して原価低減もできる
最も重要なことは、商品企画段階からの原価低減活動が重要ですが、今回はQC工程表を活用した工場での原価低減をご紹介いたします。
そもそも”原価”とは、利益を含めていない仕入れ値段。元の値段。商品の製造・販売などに要した財貨・用役の消費を、単位当たりに計算した価。コストのことをいう。
企業が利益を伸ばしていくためには、ムダを削減していくことが重要です。しかし、消費者のニーズが多様化している現在では、企業は多品種少量生産を実現することが課題の一つとなり、過大在庫の発生などムダを減らすどころか、増えている企業が多いです。ムダを削減していくには、現状の作業から付加価値を生まないムダな作業を排除していかなければなりません。
ムダの改善といえば、私が以前勤めていたトヨタ自動車は、在庫ゼロを目指し「必要なものを、必要なときに、必要なだけ造る」という、付加価値を生まない全てのムダを省くことで、利益を高めていく企業です。具体的には、①造り過ぎのムダ、②手待ちのムダ、③運搬のムダ、④加工のムダ、⑤在庫のムダ、⑥動作のムダ、⑦不良を造るムダ、を現場から徹底的に排除する活動で、この7つのムダを排除することは、付加価値を生まない作業の排除であり、原価低減の活動でもあります。
【7つのムダ】
- 造り過ぎのムダ:その時点で必要のないものを余分につくること
- 手待ちのムダ:前工程からの部品や材料を待って、今仕事ができないこと
- 運搬のムダ:必要以上の移動、仮置き、積替えなどのこと
- 加工そのもののムダ:従来からのやり方の継続など、本当に必要なのか検討もせず、本質的には必要無い工程や作業を行うこと
- 在庫のムダ:完成品、部品、材料が倉庫など保管され、すぐに使用されていないこと
- 動作のムダ:探す、しゃがむ、持ち替える、調べるなど本来不必要な動きのこと
- 不良をつくるムダ:不良品を廃棄、手直し、作り直しすること
QC工程表を使った5つの原価低減(コストダウン)
QC工程表は、品質保証のための工程表ですが、生産プロセスにおける工程ステップを設定して技術資料のため、工程管理や納期管理のための資料として活用できます。そのため、コストダウンのための技術資料としても十分に活用できますので、今回は分かりやすい5つの項目について解説します。
【①:材料の原価低減】
製造には、生産に必要な材料の購入が必要です。その材料購入や製造でのムダの削減で大きなコストダウンが可能になります。例えば、設計段階での使用する部品や材料の選定、購入時の交渉、製造での改善などが挙げられます。
- 「設計でのコストダウン」
材料費のコストダウンは、設計・生産技術・製造の中でも、特に設計段階で決定する部分が大きいです。必要な機能を最小のコストで得ることを目的として、VA提案など特殊品や過剰品質を避けるよう製品・資材サービスのコストと機能を研究し、図面や仕様書の変更、製造方法の能率化、発注先の変更などを行い、コストを低減する活動を行います。 - 「資材購入コストダウン」
複数のメーカーや業者と購入単価(レート)を下げる交渉を行うことや、材料質変更によるグレードダウンなどの工夫することで安く購入することです。 - 「製造段階のコストダウン」
製造による品質向上により不良率を下げることによる使用量を下げる活動や、材料の歩留まり率の向上を行います。
【②:外注費の原価低減】
製造には、部品の購入も必要となりますので、部品購入時のムダの削減によりコストダウンも可能です。例えば、取引先の選定で品質を確保した上で安さを求めたり、外注メーカーと協力して工程管理や指導を行うことによるコストダウンがあります。
- 「外注メーカーの選定」
取引前に、十分な品質の製品が製作できるのか?納期やコストは契約通りに実行できるのか?確認を行います。 - 「外注工程のコストダウン」
外注メーカー先の工程管理や管理能力強化を行うことでコストダウンを行います。 - 「外注メーカーへの指導」
外注先メーカーの弱い部分を強化するために指導を行います。
【③:標準時間の短縮】
モノづくりは、人と機械の製造ですので、人の部分による効率化や段取りの方法で時間短縮が見込めます。例えば、段取りや作業組み合わせなどの工夫により、作業時間を短縮することが可能になります。
- 「段取り時間の短縮」
内段取りと外段取りに分離して、極力外段取りに移行し、外段取り時間を技術的な工夫で減らしていきます。 - 「加工時間の短縮」
付加価値を生まない、作業をしていく上で何ら必要でないもの、付加価値はないが、今の作業条件下ではやらねばならない部品を取りに行くなど作業を極力減らしていく(動作のムダ・手待ちのムダ)
【④:不良率の低減】
良い品質の製品を造り込むことで、不良をつくるムダ (不良品を廃棄、手直し、作り直しすること)品質不良によるロス低減を行います。例えば、良い品質の製品を造り込む自工程完結の工程を造るなどの活動が、不良率の低減につながります。
- 「QC工程表(生産技術資料)を再現する工程作り」
最新の正確な製品図面の発行、QC工程表や標準作業の整備、それに基づく作業の実践を行います。 - 「自工程完結の生産プロセス造り」
各工程で良品・不良品の判断が正しくできる仕組みを整備し、不良品を作らない送らない仕組みを作ります。 - 「作業者の作業訓練の徹底」
作業者の多能化を進めるとともに、特殊作業や特殊工程については資格制度にし、適材適所を考慮して配置します。 - 「品質管理(QC)の徹底で再発防止を図る」
日々の生産データや品質データを生かして、バラツキの少ない品質向上活動に取り組みます。
【⑤:製造経費の原価低減】
利益を向上させるためには、ムダな経費を低減させることが最も効果があり、すぐに行える取り組みです。例えば、ムダを低減するために、物流人員の削減や作業組み合わせなどの工夫により、経費の削減につながります。
- 「人件費の低減」
工程内レイアウト変更による物流人員の削減、作業組み合わせの変更、自動停止する仕組みや、手動から自働化への移行による人件費の削減を行います。 - 「経費の低減」
教育用設備の内製化による外注費の低減やペーパーレスなど、消耗品、エネルギー費、通信費、出張費など経費の低減を行います。