今回は、以前13年間勤め、とてもお世話になったトヨタの問題解決8ステップをお伝えします。
問題が目に見えるようになっているトヨタの社員にとって、仕事とは「問題を解決すること」です。(その仕組み自体が凄いことですが、、、。)
入社してすぐ、上司や先輩から問題解決を指導されます。そのときに必ず指導されるのが「問題解決A3一枚の報告書」です。この一枚のA3用紙に起承転結となる7つの項目をストーリーにして収めるのが特徴です。
もともと、このA3資料は、トヨタ独自のものではなく、QC活動(品質管理)における報告書のフォーマットで、A3一枚の資料の7つの項目に分けられ、パッと一目見るだけで問題解決の全貌が誰にでも簡単に理解できます。
トヨタの社員に求められる“基礎的能力”の主要な一つに、“問題解決能力”があります。問題解決能力とは、問題発見 → 目標設定 → 要因解析 →対策立案 の手順で、仕事を進める能力のことで、どこの企業においても求められる、まさに仕事の基本である「P-D-C-A」のサイクルのことです。
このページの狙いは、問題を解決するステップである「問題解決手法」の考え方を理解し、日常の業務の中で主体的に実践することを通じて、「仕事の基礎を再確認し、さらに独創的な視点から業務を見つめなおす」ことにあります。
トヨタが行うA3一枚の問題解決(QCストーリー)
問題解決の基本3原則
問題の解決を図るにあたり、次の3原則を常に意識しましょう。
【原則①】:管理のサイクル〔P―D―C-A〕を回す
管理のサイクルとは、「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)」のことです。あらゆる仕事に、このサイクルを回すクセをつけましょう。特に「Check(評価)→ Act(改善)」が重要です。
仕事に対して常に「Check(評価)→ Act(改善)」を繰り返すことが、仕事の質を高め、個人の能力の向上に繋がります。
【原則②】:事実・データで判断し、行動する
事実・データに基づき、調査分析する
- 現地現物主義で、合理的・科学的に仕事をする
- 建前ではなく、本音に基づいて実態を把握する
- 経験・勘・度胸だけで仕事をしない
- 定性(性質)的ではなく定量(数量)的に把握する
要因を分析して対策を立てる
- 現象(結果)と要因(原因)を分けて考える
- 「ナゼナゼナゼ」の繰り返しで、根本原因(真因)をつかみ対策する
重点指向する
- 何が重要か層別し、重点を絞って考える
【原則③】:お客様(後工程)第一で考える
自分(自部署)の仕事の改善・効率化が、他者(他部署)に悪影響を及ぼさない
そもそも、問題とはなにか?
問題とは、まず、問題という言葉を定義づけると、次のように説明できます。
問題とは
問題 = 「基準」あるいは「目標」と現状との間のズレ
(「あるべき姿」と「現状」とのギャップ)
あなたが何らかの事実を見て、これを「解決すべき問題である」と感じた時、必ずその事実と比較する基準(目標水準)を持っているはずです。
例えば、生産の遅れ・品質の低下・原価の上昇ということは、基準となる品質(品質基準)・原価(原価基準)と現状に”ズレ”が認められたという事で、この”ズレ”が、解決しなければならない問題となります。
問題は、大きく分けて次の2種類になります。
(イ)発生型の問題
現状においてマイナスの影響を及ぼしている問題
例:設備故障や不良品発生などのトラブル的な問題
(ロ)設定型の問題
現状では問題ないが、環境の変化により問題になる
例:基準が引き上げられると問題になる
問題解決の8ステップ(QCストーリー)
▼「問題解決」は大まかに以下の基本ステップ ポイント手順で進めます
問題の発見
『発生型問題解決』でいう「問題」とは、こうありたいと思う期待値と、現状のギャップを言う。従って、問題のない職場はない。あるとすれば視える化が遅れ、問題が見えない職場か異常が多くて「異常が多いのが通常=正常」と、感覚が麻痺している職場である。
問題意識を高める
- 枠組みや視点、尺度を変えて物事を見てみる
- 他と比較する
望まれる状態(基準・目標水準)と現状を明確にする ※問題発見の着眼点
【基準・目標水準がある場合、現在の基準水準を明確にする】
- 現在の目標値 ----- 売上・利益・納期 など
- 基準 ----- 規格・品質基準・原価基準 など
【基準・目標水準がない場合は、次の観点から設定する】
- 組織の方針 ------ 戦略・施策・方針 など
- 周囲 ----------- 他社との比較・他部門からの指摘 など
- 自分の役割・使命 -- 達成すべき仕事・商品知識・仕事の能力 など
- 顧客満足 ------- ユーザーニーズ
- 将来の必要性 ----- 変化に対応する為の ヒト・モノ・カネ・知識・情報
- 過去との比較
「望まれる状態」と「現状」との差を明確にする
- 望まれる状態と現状とを比較して差異をつかみ、現状の問題を明らかにする
テーマを決める
- 上位方針・目標や期待効果、実現性などの観点から、明らかにした問題を評価し、取り組むべきテーマを決定する
- 取り上げた理由をはっきりさせる
まず、自分の仕事を振り返り、日常困っていることや、うまくいかない問題がありそうなことを列挙してみる。
- 品質でのトラブル、ニアミス
- 原価でいつも予算をオーバーしている
- 生産遅れて困っていること,手直し
- 安全でのやりにくい作業、ニアミス
- 人事で突発年休で朝ガタガタする
問題の明確化(定量化)
リストアップした問題は「多い少ない」「よく発生」するなど、感覚的な評価(定性評価)をしている。そこでこれらを誰が見て解るように定量的(数値)にあらわし明確にする。まず、問題としてリストアップした各項目が何に対して多いのか、少ないのかの基準となる、職場の目標水準(基準)を定量的に把握する。
問題の評価とテーマ選定
- いくつか挙げられた問題を優先付けの評価をおこなう。(重点指向)
- 評価視点は影響度、緊急度、拡大傾向
このステップは「問題の絞り込み」から「テーマを選定する」ステップである。従って、この時点のテーマは解析、対策などの発想を妨げないよう、問題そのものを取り上げる。
現状把握:現状を調査・分析し、事実を把握する
- 問題を層別・具体化する
- 具体化された問題点に優先順位をつける
問題をさまざまな切り口で層別し、どこに集中して問題が発生しているのか調べ、解決すべき事実(特性)を特定する。問題についての議論は経験による「推定」、「イメージ」や「他人の伝聞」を避け、事実やデーターでのアプローチが道に迷わない。ただしデーターは切り口の断面で全体の事実ではない。
【定量的現状把握】どこに問題が集中して発生しているかを見つけるため、さまざまな角度から問題を調査して、具体的な数値を把握し見える形にする。
現状を調査・分析し、事実を把握する
- 先入観を持ったり、感覚的な推測による判断は避け、事実を把握する
- できるだけ正確な情報・データを収集する
- 自分の手足・耳・目を使い、現地現物主義で取り組む
- 多方面から把握する
- 時系列変化や過去の経緯、最頻値やバラツキなど、多方面から把握し考える
問題を層別・具体化する
- 大きく・曖昧な問題をモレなく層別し(細かく分けて)、より具体的な一つ一つの問題に
整理する
具体化された問題点に優先順位をつける
- 具体化されたものが解決すべき問題であるかどうか評価し、優先順位をつける(取り組むべき問題の優先順位の評価指標)
目標の設定
- ニーズ(基準)に基づいて具体的に目標を定める
解決すべき問題が明確になれば次に、これから取り組むべき目標を決め、チャレンジしなければなりません。目標設定については、次の点が重要になります。
ニーズ(基準)に基づいて具体的に目標を定める
- 目標は、必要性からズバリと決める
- 目標値を明確にする→具体的に定量的に示す(「何を、いつまでに、どのように」~目標のステートメント化〜)
- 積極的な意識を織り込んだ目標にする
- 効率的に問題解決を進めるために、上司とよく話し合い、上位方針を確認して目標設定を行なう
要因解析:特性に関する現状を調査する
- 要因(原因)を洗い出す
- 洗い出した要因を整理・解析する
- 真因の検証をする
特性(工程能力不足による不良流出)を発生させている原因(要因)を洗い出し重要だと思われる数要因(主要因)を絞り込み、その中から最も特性に影響を与えている主要因(真因)を調査し突き止める。
問題が明確になれば、要因の解析を行なわなければなりません。要因解析とは、基準・目標水準と現状との間の差異を生じさせている要因(原因)を明確にすることです。要因解析のステップは、以下のとおりです。
現状調査
- 問題に関する現状や、周辺事実を調べる要因解析を行なう為に、今まで分かっている事実を収集・整理して極力データで表す(「現状把握」で調査したデータ・情報も活用する)
要因(原因)を洗い出す
問題発見で捉えたズレから出発し、関連する色々な事実から考えられる原因を全て洗い出す。
- ブレンストーミング等によりランダムにあげる
- 「なぜ、なぜ、なぜ」の観点で、考えられるものを全て洗い出す
洗い出した要因を整理・解析する
- 洗い出した事実相互の原因関係(問題と要因の関係)を調べる。洗い出した要因について、大きくまとまっているもの・関連のありそうなものに分別し、関係を決める。
- 特性要因図(フィッシュボーン)、系統図 等を作成し活用する経験のみの先入観で要因の見逃しや謝った真因追究をしていないか、広い視野から再確認を行なう
真因の検証をする
原因を洗い出し解析を行なった上で、問題解決に重要な影響を持つ真の要因を探り見極める。机上の推論ではなく、「事実」の裏づけを行なう。例えば、、、
- 追加のデータ採取や実験を行なう
- 現地現物で確認を行なう
- アンケートを取る 等
対策立案:対策案の洗い出しと検討
- 対策案の評価
- 具体的な実行計画の立案
山の頂上を目指す登山道はいくつもある。真因に対する対策案もいくつか考えられる。それらの対策案を評価して選択し、実施計画をたて実行にうつす。真の要因が明確になれば、次に対策を考えるということになります。対策立案では、次の点が重要になります。
対策案の洗い出しと検討
- 知恵、技術、体験を生かし、創造的、多角的に対策案を考える
- 一案だけでなく、多くの対策案を考え検討する
対策案の評価
対策案がいろいろと立案できたら、実行に移す前に 充分な評価を行なうことが必要です
【a.目標達成ができる対策かどうか?】
一つ一つの対策が問題のどの部分を解決し、目標に対しどれだけ寄与するかを明確にし、全ての対策案により100%目標が達成できるかどうかを評価する。
【b.実現の可能性、経済性はどうか?】
どんなに効果が大きくても、実現不可能では何にもなりません。難易度、人員・現状の能力、経済性(工数、費用)、安全性などを検討し、効率の良い対策案を選択しなければなりません。
【c.その対策を打つ事により、新たな問題/副作用が発生する事はないか?】
事前に自分の職場だけでなく、後工程・他の組織への影響や マイナス面を検討しておく必要があります。
【d.対策途中で 予定通り効果が得られない場合の対応策はあるか?】
対策実施途中で、障害や条件の変化などにより、予定通りの効果が得られない場合を予測し、どんな方法でカバーするか遅れを取り戻すか等の対応策を検討しておく必要があります。
【e.再発防止は組み込まれているか?】
目先に捕らわれ、その場しのぎの対策では意味がありません。従って、再発防止を含んだ対策案でなければなりません。
具体的な実行計画の立案
- 5W1Hに沿って、行動・方法・手順などを明確に計画立案する(いつ、どこで、誰が、何を、どのように)
- 関係者・関係部署と充分に連絡をとり意見調整・意思統一を行なう。
- チェック計画も考えておく。
実行
実行計画に沿って実施します。実施の際には、以下の点に留意します。
- (対策実施)計画に基づき着実に実行する
- 成果をあげるために、進捗状況を定期的に確認
- こまめな報告
こまめな報告(ホウ・レン・ソウ)
実行の段階で状況が変化することがあります。その都度チェックし、変化に対応できるようにしましょう。場合によっては計画を変更する姿勢も大切です。実行した事について、上司や関係者に進捗状況を報告することが大切です。進捗が遅れたり不測の事態が起きた時に、上司関係者と相談し、何らかの手を打つことが可能となります。
評価
対策を実施した結果、変化や効果があったかどうか確認することが必要です。
- (効果の確認)対策結果の確認
- 目標が達成できたか
- 実施計画どおり実行できたか
目標に対する効果は?
- 立てた目標に対し、どの程度達成できたかを把握し評価する。目標に達したか、また計画とおり実施できたか、について調査・確認・評価する
- 目標達成の為に計画した実施事項が、思った通りにうまくいったかどうか評価する。もし期待通りに進んでいない場合には、すぐに原因を探る。
付随効果の確認
- 無形効果・・・職場がきれいになった、異常が見えるようになった など
- マイナス効果・・・工数が増えた、ランニングコストが増えた など
同じ問題が再発しないように、活動の成果を永続的に維持する仕組みを作る。
もし再発しても、大きな問題になる前に、発見できるような仕組みをつくる。
標準化/定着化・再発防止
解決した問題に対する再発防止や、今回の対策で結果的に解決できなかった部分について継続的に管理していくことが必要です。再発防止→チェックシートで定期的にチェックします→6ヶ月もしたらチェックシートは空欄だけとならない強い再発防止を築くこと。5W1H+記録 で標準化する。
- 問題の再発見 元に戻らないよう標準化して定着を図る
- 効果の拡大を図る
- 反省点・新たな問題点等を把握し、次に活かす
- 良い結果が得られたものは、元に戻らないよう標準化して再発防止を図る
- 関係先・他部署に情報を流し、効果の拡大を図る
- 今回の対策の反省をし、次に活かす
- 結果的に見てできなかった部分については、残された問題として、次の問題解決のサークルとして回す。
- また、より良くするにはどうしたらよいかを考え、次の計画に活かす。
- 対策の展開により、新たな問題が発生することもあります。その新たな問題点を探すことも大切です。
最後に
今回は、トヨタで学んだ、トヨタが活用する問題解決手法をご紹介しました。入社してすぐに問題解決を叩き込まれます。そして、退社するまで、毎日、この問題解決の連続です。この8ステップに則って問題を解決していきます。
トヨタ自動車では、『あるべき姿』が具体的で明確です。だから、「あるべき姿」と「現実」のギャップが見える化されて、一目見るだけで、その差が明確です。だから思考がとてもシンプルなんですね。複雑に考える必要がないのです。
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